松塚 しのぶ

コピーライター

創や

料理人が作りだすのは、笑顔と笑い声とおいしい時間。

 東京港区赤坂の『創や』から、毎月初めにその月のメニューがメールで届く。ユーモアあふれる季節の挨拶とともに。メニューは旬の食材が満載で、どれも彩り豊かなオリジナル料理が並ぶ。いつものおいしさを思い浮かべて、思わずニンマリ。恥ずかしながら、鼻孔が広がるほどだ。

 実は、『創や』は前身の店『トキ』からの馴染みで、私は女主人で料理人の土岐さんの大ファンだった。その店で働いていた料理人が店を受け継ぎ、味をつなぎながら、新しさを加味して、6年前にオープン。もちろん『トキ』の常連さんはそのままに、新客もたくさん増えている。

 2年前から昼の営業を始めたら、この周辺の目ざといオフィスワーカーによって、行列のできるランチの人気店となった。リーズナブルでおいしいから、女性客が多いこともうなずける。

 『味の手帖』といえば、『創や』のカウンターには「味の手帖の日めくりカレンダー」が置いてある。待ち合わせの相手が来るまで、カレンダーの食材にまつわるおいしい話を読むのが、マイ定番だ。他のお客さんもそうしているみたい。

 私が『創や』で真っ先にたのむのは、「酒肴彩菜」と題した十種類近くの小鉢。なんとどれも200円。ちょっとおしゃれな金平やアレンジポテサラなど、楽しいアイデアレシピばかり。すぐに出てくるそれらの小鉢をつまみながら、「本日のおすすめ料理」を待つ。その季節ならではの日本酒を味わいながら。

 「そろそろお腹がふくれてきたから、半分の量にして」などとわがままを聞いてくれるのも嬉しい。いろんな料理を食べたい食いしん坊の私には、とにかくうってつけの店なのだ。

東京都港区赤坂2-14-12 川村ビル1階
TEL 03(3586)7090

 しかも、シメのご飯をいただいた後には、さらに幸せが待っている。この店では奥の厨房で腕を振るう女性料理人淳ちゃん作のスイーツも楽しめるのだ。でも、私は満腹すぎて、なかなかここまでたどりつけず、また今度、となることが多い。それがいつも心残りだ。

 コロナによる緊急事態宣言という思わぬ出来事で、この店もしばし休業したが、常連客はずっと再開を待っていた。〝おいしい時間〟がキャッチフレーズの『創や』。料理はもちろんのこと、店主の木津さんの笑顔に迎えられて、笑声が響くこの店で過ごす時間が、なにより大好きだから。

関口 直人

CM音楽プロデューサー

銘酒と旬肴 樋川

舌鼓打ち、一首一献

「樋川」は沖縄で「ひぃじゃー」と言い、泉とか井戸、水の湧く所という意味だ。沖縄を故郷とする店主、仲村康さんが繁盛を願い命名したところ、大岡山の人気店となり、今年の8月20日で10周年を迎えるに至った。近年は毎年ミシュランのビブグルマンに選ばれていて流石だ。

 サザエさんの親戚が住んでいそうな街の商店街を抜け、角を曲がると粋な看板が見えてくる。店は狭過ぎず広過ぎず、丁度心地よく寛げる広さで、カウンター8席、テーブル13席だろうか。店内は品良く、きちんとしているが決して気取っていない。ヱビスの生、それに地ビールの生が3種類、日本酒は厳選された美酒が凡そ50種類ほど用意され、純米吟醸の生酒を中心に、純米大吟醸、純米酒と並び、メニューには造りの情報も丁寧に記載されている。

 まず楽しみなのは日替わりのお通しだ。まさに旬の一品が工夫されて出て来る。生シシャモの天婦羅が小皿の上で泳ぎながら現れた時の見事なこと。口に含めば軽い歯触りで美味しく、嬉しくなる。

 魚も野菜も、季節を味わえるご馳走にする技は、樋川の最大の魅力と言える。春は南会津から採れ立ての山菜の数々、三浦半島・佐島の夏野菜に秋のキノコなど。また彩り野菜の煮浸しも美しさに思わず拍手したくなるのだ。鯵の唐揚げ土佐酢掛けも人気の料理で、二度揚げした鯵に目の前で土佐酢を掛けると、ジュジュジュジューっと音まで美味そうな絶品だ。土鍋で炊くご飯も是非味わって頂きたいもの。春は蛍烏賊や筍、秋は栗やその他色々だが、時間が掛かるので40分ほど前に注文する。魚は豊洲の他、佐島に毎週仕入れに行くのだ。ウィンドサーフィンしながら、釣って来るとか。まさかね(笑)。

 実は開店して間もなくから、仲間で短歌の会を第1木曜日に催して飲んでいる。名付けて『一木会』とは、そのままだ。昨年5月、年号が令和に改まった最初の木曜日に、何と第100回を迎えた。短歌というのは飲む口実のようなもので、時々お酒と話で盛り上がり、短歌を詠むのをうっかりしそうになるというような有様。そんな僕等に優しい仲村夫妻は気を配り便宜を図ってくれる。10年続いたから、もう10年、更に10年と、不老長寿の酒と四季の恵みに舌鼓打ち、一首一献を楽しみに大岡山の頂きへ通いたいと願っている。

仲村に清き泉の湧き出でて大岡山の樋川麗し    
       酔楽囀

東京都大田区北千束1-54-10
TEL 03(3718)8760

進藤 伸二

コピーライター

レストランテ風

ときめいた、その日がぼくの
勝沼ワイン記念日。

 メインは和牛のローストビーフをチョイスした。普段はあまりローストビーフに関心がないのだが、こちらに来店するときは必ずローストビーフを選ぶことにしている。

 コース料理のクライマックスになると、ワゴンを押しながらシェフが登場。とろけるような霜降りと赤身の2種類の肉を、その場で切り分けてくれる。ぼくは、ちょっと多めに切ってくれないかなと、淡い期待を寄せつつ、その様子をわくわく眺めている。居酒屋で日本酒を目の前で注いでもらうときに、「もっと入れてくれ…」と心の中で静かに祈る、あの感じと同じだ。

 皿をテーブルに移しながらシェフが言う。ぜひワサビで食べてみてください、白ワインが合いますよ、と。ぼくはその提案に素直に従い、肉と白ワインを口にする。ああ、旨い。鼻に抜けるワインの香りやマリアージュのことはよくわからないが、思わず笑ってしまうこの幸せな気分は、しみじみ実感できる。

 山梨県勝沼町の『レストランテ風』。

 長崎の大浦天主堂をイメージしたという店内は、高さを確保したドーム型の天井(リブ・ヴォールト)が広々とした神聖な空間を創りだしている。小高い丘の上にあるので、窓際の席から甲府盆地と葡萄畑を見渡せるのも魅力だ。

 この店のいちばんの特長は、1937年創業という歴史あるワイナリー『勝沼醸造』の直営レストランだということ。勝沼町内にある全てのワイナリーの酒を置いているほか、フランスのワインも多数常備しているようだ。シェフが薦めてくれた白ワインはもちろん勝沼醸造のものだが、残念ながら銘柄を失念してしまった。

 ぼくはコース料理の他にチーズを頼み、料理の合間に勝沼醸造のワインを楽しむのが好きだ。一緒に食べるパンもまた美味しい。この日は、スタッフが薦めてくれたハードタイプのチーズで、花びらのように薄く削って提供される「テット・ド・モワンヌ」がたいそう気に入ってしまった。

 ちなみに、近所にある勝沼醸造の母屋は古い日本家屋で、ワインの試飲や販売も行っている。

 それまでワインの味がよくわからなかったぼくは、2001年にこの店を訪れ、決して高額ではない勝沼醸造のワインを知ってから「ワイン好きかも…」と思えるようになった。あの日のときめきは、いつまでも忘れたくない。

山梨県甲州市勝沼町下岩崎2171
TEL 0553(44)3325