南 美希子

エッセイスト・コメンテーター

ろくごう

自宅のような寛げる空間で
客人をもてなすおばんざいと酒

 舌の悦楽とホスピタリティを求めるのであれば、店選びにさほど苦労はしない昨今の東京である。が、団欒をメインディッシュにし、静かで落ち着いた空間で品数豊富な家庭料理を味わえる店を探すとなると、そう易々とは思い浮かばない。恵比寿駅に程近いこの「ろくごう」は、多忙を極める女性経営者が、打ち上げや商談、密談などで気の置けない人々と身体に優しく家庭的で美味しい料理を食する場が欲しいという自らの願望を形にした店だ。

 紹介制というハードルはあるが、自宅のような寛げる空間で、多種多様のおばんざいと選りすぐりの酒で客をもてなしたいという思いが容易に叶うのだ。店を貸し切りたい、お気に入りの酒を持ち込みたい、要望に沿った料理を用意してほしい(イタリアンやパーティー料理といった希望にも応えてくれるそうだ)などの客のわがまま放題も、早めに伝えさえすればOKという何とも有り難い店だ。

 基本のコースは週替わりだというが、例えば、きんぴらやポテトサラダなどの5品のおばんざい、昔懐かしいスパゲティナポリタン、特製メンチカツ、和牛のたたきと続く。メヒカリの唐揚げや煮魚の日もあるらしい。お酒の品揃えも豊富で、特に第65代横綱・貴乃花がプロデュースした「貴乃花」はキレ、芳醇な香り共に申し分なく、料理を華やかに引き立ててくれる。料理のシメは釜炊きご飯と味噌汁と香の物。これにデザートがつく。

 特筆すべきはご飯の友で、こちらが魅力的極まりない。新潟から取り寄せた卵黄がひと際濃い生卵。自家製いくらと梅干し。たらこの産地として名高い北海道は虎杖浜(こじょうはま)の生たらこ。しらすとくるみの佃煮・紫蘇入り青唐辛子味噌も同じく自家製で、いずれも何回でもお代わりしたくなる。ご飯の友の中からお好みのものをお持ちしますと言われ、ここでもわがまま全開で全てお願いすることにした。とっておきのおかずで銀シャリを頬張る至福がここにはある。

 料理にさらなるイベント性を求めるならば、きりたんぽや水炊きなど、鍋物も用意できるそうだ。最近では自前で蟹を持ち込み、カニ鍋をオーダーした強者もいたそうで、わがままを言ったもの勝ちのようなところがこの店にはある。

 店名の「ろくごう」は富士山の6合目のことだそうで、常に頂上を目指し続ける謙虚さを忘れないため、とのことである。

東京都渋谷区恵比寿西1-13-6 ブラッサムZEN2階
TEL 03(6277)5501

森本 チヅ子

美容家

いかだ荘山上(さんじょう)』

味と眺めと人情の宿

 ナチュラルワインの世界では知らない人はいないという「スロベニアワイン」を日本に輸入している友人に連れられ、伊勢志摩の『いかだ荘山上』を訪れました。

 先ずは、いかだ荘に着いて中に入った瞬間、眼下に広がる穏やかで美しい的矢湾(まとやわん)に心奪われると同時に、広島生まれの私は故郷に帰ったような懐かしさを感じました。そんな風景に見とれていると、「帆船の時代、的矢は風待ちの港として、船乗りさん達が航海の疲れを癒していた所なんですよ」と、見るからに優しそうな、若女将の陽子さんが教えてくださいました。そのお話を伺い、だからこんなにも癒されるのかと納得しました。

 そして、いよいよ夕食。古くは朝廷に納めていたほど豊かな海産物が育つ伊勢志摩ですから、「きっと御馳走だろうな」とは想像していましたが、それは想像をはるかに超えるものでした。目の前の湾で獲れた伊勢エビやヒラメ、アワビなど、魚介類は全て新鮮。夢見心地でいただきました。

 中でも素晴らしかったのは的矢牡蠣のプレミアムオイスターです。普通の牡蠣とは違って少し小ぶりで、濃厚なうま味がぎゅっと詰まっていて、牡蠣特有のエグみもなく、シャキシャキした不思議な食感。広島生まれの私は牡蠣は食べ慣れているつもりでしたが、今まで食したことがない味で、そのあまりの美味しさに、プレミアムオイスターの秘密が知りたくなり調べてみました。

 普通、牡蠣の養殖は筏から海に垂直に牡蠣を重ねて垂らして育てますが、プレミアムオイスターは網目で細長いドラム缶のようなものを横にしてその中で牡蠣の幼生を成長させます。そうすることで、ふ化から収穫までバラバラで育てられるようになり、沢山の餌が得られ、牡蠣自体運動することができるので美味しく育ちます。

 さらに、「真牡蠣の旬は真冬」という常識を破ったのが「三倍体牡蠣」(産卵しないように処理した牡蠣)です。これによって、さらに私たちは美味しいプレミアムオイスターを一年中食べることができるようになりました。

 そうした新しい取り組みによって生み出された、美味しい料理の数々が運ばれるごとに、感嘆と称賛を発し、幸せをかみしめながら味わう私を、友人は誇らしげに傍で微笑んで見ていました。きっと、私も次回はお友達を誘って、皆の感嘆と称賛を聞き、「こんなに食べてこの料金!」と喜んでいる姿を、傍で誇らしげに見ていることでしょう。

三重県志摩市磯部町的矢883-12
TEL 0599(57)2035