牛尾治朗対談


少年期からシンガポール、ブラジルで過ごし、ブラジルでは高校に通わず独学で勉強を続け、慶應義塾大学経済学部通信教育課程に入学。
その後、東京大学大学院で経済学博士号を取得され、現在、同大学院経済学研究科・経済学部教授を務められている柳川範之さん。
フィンテック、AI、IoTなど新しいテクノロジーが次々と登場するこの技術革新の時代に日本の文化や特性を生かしてグローバルに活躍するための経営のあり方を提示していきたいと語る。

柳川 範之(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)
新しい時代を見据えた 新しい『日本的経営』のあり方

牛尾
ようこそお越しくださいました。

柳川
お招きいただきまして、ありがとうございます。

牛尾
柳川さんと初めてお会いしたのは「内閣府経済財政諮問会議」(二〇〇八年)で、当時の福田康夫総理が『新前川レポート』を作りたいということで、私も柳川さんもそのメンバーに入っていたのですね。

その二十年前に作られた『前川リポート』では、成長の成果を国民生活に生かすための内需主導型経済への転換が大きな政策目標となったわけですが、そこでの「内需主導」の意味がバブル破綻後のゼロ成長の下で「官需主導」に置き換えられ、それが市民権を確立してしまった。これを原点に戻して民需主導の経済成長を目指すことが『新前川レポート』の大きな役割でした。そこで、政府が公平な市場のルールを設定・運営する中で、個人や企業の自由な選択が最大限に発揮される社会を目指すことを目標に私たちが話し合いをしたわけですね。

柳川
それこそ今、働き方改革が議論されていますが、その時の中心的なテーマは、経済の大きな構造改革をして発展をさせようということで、一つが雇用や働き方の話で、もう一つは規制改革をして今までの産業の枠組みを超えた企業活動ができるようにしようという話でした。既得権益を打ち破るような改革をしようと。かなり総合的な、いろいろな側面の改革を狙った内容でした。

牛尾
とても内容の濃いレポートができて、最終的に総理に提出しましたね。

それ以降、一緒に仕事をしてきて、今は「NIRA」の理事をしていただいて。

柳川
私が政府の仕事に携わらせていただいたのはその時がほぼ初めてで、まだ右も左もわからない状態でしたが、牛尾さんにはその頃から現在に至るまで、いろいろ教えていただいてとても勉強になっています。

「NIRA」は民間の立場から政策提言をする、とても貴重な場だと思います。やはり政策というのは、政治家や官僚だけで作るものではなくて、いろいろな側面から総合的に、フラットに議論して、提言することが重要だと思うのです。しかし、具体的にどのように提言していけばいいかというのはなかなかわかりにくいのですが、その辺りについて牛尾さんから多くのことを学ばせていただいています。政策提言のあり方や政策の見方もそうですし、しっかりとした政策を提言していけば、すぐに成果は出なくても必ず将来に繋がるのだというスタンスの問題とか。大学では誰もそんな見方は教えてくれませんので。

牛尾
大学教授の中には、柳川さんのように優秀な発想を持っている人はたくさんいるのに、それをほとんど生かせていないというのは本当にもったいないです。

柳川
おっしゃる通りです。学問にはいろいろな意味合いや目的があって、中には純粋に数学的に証明することを目標にしている学者もいて、それはそれでいいと思うのです。でも社会科学の学者の場合、やはり社会に何らかの役に立つような提言をしたいと思っている人は多いと思うのですが、実は、その方法については意外に学ぶ場がなくて、どうしていいかわからないことが多々あるのです。その中で、牛尾さんのように、長い間いろいろな政策を見て、実現されてきた方に教えていただけて、私にとってこの十年はとてもありがたく、大変貴重な財産になっています。