進藤 伸二

コピーライター

レストランテ風

ときめいた、その日がぼくの
勝沼ワイン記念日。

 メインは和牛のローストビーフをチョイスした。普段はあまりローストビーフに関心がないのだが、こちらに来店するときは必ずローストビーフを選ぶことにしている。

 コース料理のクライマックスになると、ワゴンを押しながらシェフが登場。とろけるような霜降りと赤身の2種類の肉を、その場で切り分けてくれる。ぼくは、ちょっと多めに切ってくれないかなと、淡い期待を寄せつつ、その様子をわくわく眺めている。居酒屋で日本酒を目の前で注いでもらうときに、「もっと入れてくれ…」と心の中で静かに祈る、あの感じと同じだ。

 皿をテーブルに移しながらシェフが言う。ぜひワサビで食べてみてください、白ワインが合いますよ、と。ぼくはその提案に素直に従い、肉と白ワインを口にする。ああ、旨い。鼻に抜けるワインの香りやマリアージュのことはよくわからないが、思わず笑ってしまうこの幸せな気分は、しみじみ実感できる。

 山梨県勝沼町の『レストランテ風』。

 長崎の大浦天主堂をイメージしたという店内は、高さを確保したドーム型の天井(リブ・ヴォールト)が広々とした神聖な空間を創りだしている。小高い丘の上にあるので、窓際の席から甲府盆地と葡萄畑を見渡せるのも魅力だ。

 この店のいちばんの特長は、1937年創業という歴史あるワイナリー『勝沼醸造』の直営レストランだということ。勝沼町内にある全てのワイナリーの酒を置いているほか、フランスのワインも多数常備しているようだ。シェフが薦めてくれた白ワインはもちろん勝沼醸造のものだが、残念ながら銘柄を失念してしまった。

 ぼくはコース料理の他にチーズを頼み、料理の合間に勝沼醸造のワインを楽しむのが好きだ。一緒に食べるパンもまた美味しい。この日は、スタッフが薦めてくれたハードタイプのチーズで、花びらのように薄く削って提供される「テット・ド・モワンヌ」がたいそう気に入ってしまった。

 ちなみに、近所にある勝沼醸造の母屋は古い日本家屋で、ワインの試飲や販売も行っている。

 それまでワインの味がよくわからなかったぼくは、2001年にこの店を訪れ、決して高額ではない勝沼醸造のワインを知ってから「ワイン好きかも…」と思えるようになった。あの日のときめきは、いつまでも忘れたくない。

山梨県甲州市勝沼町下岩崎2171
TEL 0553(44)3325