フランス料理の新店(2)

サンプリシテ

堂々たるフランス料理の風格
日本の魚が中心のコース

 フランスやスイスの数々の星付き店にて研鑽を重ねて帰国し、『銀座レカン』スーシェフ、広尾『レヴェランス』、荻窪『ヴァリノール』料理長を歴任後、昨年12月に独立開業した、相原薫シェフの店である。

 日本の魚はキレイで、水のような澄んだ味わいがある。しかし熟成させると、たちまち内に眠っていた凛々しさが顔を出す。濃密に味が膨らんだ魚は油脂ともなじみ、さらりと軽い野菜のソースをかけても色気がにじみ出る。「1か月も熟成できる魚は世界中を探しても日本にしかない」という相原シェフは、極めて質の高い魚を仕入れ、それらを熟成させて、力強い野菜と合わせる。魚と野菜のたくましいミネラルが結合して、色気を醸し出す。 
 1コースのみで、昼は5000円(7~8皿)、夜は1万3000円(11~13皿)、税・サ別。完全予約制。

 ある夏の夜のコースは以下の通り。

  1. 2週間寝かせたサワラと焼き茄子ピュレにトマト。サワラの熟れた色気と、焼き茄子の香りが素晴らしく合う。
  2. サブレ・ブルトンヌに、ボルディエの海塩バター、68℃で火入れをしたシラスと卵黄、黒オリーブのマドレーヌ。マドレーヌの食感と香ばしさが食欲をくすぐる。
  3. パン・ド・カンパーニュ、ボルディエの海藻バター、釧路町昆布森の毛ガニ、ラトビアのキャビア「オシェトラ」。毛ガニの味の濃さが全てをまとめ上げている。
  4. 6日間寝かせたイワシとネギ、生姜。イワシの温度帯が素晴らしい。それが色気を醸して、ワインが飲みたくなる。
  5. ボタンエビ、ボタンエビ頭のコンソメ、ダークチェリー、バラの花。真空氷温漬けにしたボタンエビの濃縮した甘みが、ダークチェリーの甘酸味や華やかなバラの芳香と合わさり、ときめく瞬間がある。
  6. アワビ、アワビのフォンとクリームとバターのソース。トリュフ。ジャガイモのリゾット。
  7. 胡麻鯖、トマト水とグリーンオリーブのスープ。フィンガーライム、ルッコラ、カラマンシービネガー。生き生きとした胡麻鯖の肉が生み出す豊潤な滋味と爽やかな香り、トマト水やグリーンオリーブの旨味が醸し出す美しさに、うっとりとなる。
  8. スジアラ、小松菜のソース。5日間寝かせたスジアラの雄大な滋味と、小松菜の青々しい香りとの出合いにより、味に底知れぬ深みを生み出している。
  9. 京都七谷(ななたに)鴨とインゲン。赤ワインとマグロ節、イリコと椎茸、マッシュルームと白菜、昆布のソース。軽やかさと濃密さを両立させた味のソースが、精妙に火入れされた鴨肉の滋味を持ち上げて素晴らしい。
  10. ビーツと抹茶パウダー。ビーツの真髄だけを煮詰めたような濃縮感がいい。

 デセールは、ほうじ茶のフォンダンとソルベ。これまた香り高く、心を安らげる。最後は、小さなシュークリームと台湾茶。

 相原シェフの料理は、どの皿も堂々たるフランス料理の風格がある。精神を溶かし、肉体を弛緩させる。それはおそらく、フランスで長く修業して学んだ、彼の根っこにある、料理人としてのある種のしたたかさではないだろうか。そこに潜むフランス料理の哲学が、我々を魅了するのである。

東京都渋谷区猿楽町3-9 アヴェニューサイド代官山12階 
電話=03(6759)1096
営業時間=12時~13時半(L.O.)、18時~20時半(L.O.)
定休日=月曜日・第1火曜日(祝日の場合は翌日)

アルゴリズム

独創性を生み出す
良質の魚とクラシックなソース

『銀座レカン』『カンテサンス』で経験を積まれた、深谷博輝シェフが昨年秋に開いた店。モダンな内装、カウンターだけの店を、シェフとサービスの二人で切り盛りされている。1コースのみで、昼は8000円(7~8皿)、夜は1万4500円(10~11皿)。料理に合わせたペアリングのみの用意で、ワインペアリング4500円~1万500円(3~7杯)、ノンアルコールペアリング5500円(5杯)、税・サ・水込。完全予約制。

 ある夏の夜のコースは以下の通り。

  1. スイカのモヒート。半割りにした小さなスイカの中にモヒートが入れられ、涼が口の中を吹き抜ける。
  2. ピサラディエール。南仏郷土料理をアルゴリズム流で。温めた石の上にパンスフレ、玉ねぎのコンフィ、オリーブ。
    ?煮たレンズ豆と焼き茄子のフリット、白イカのソテー。レンズ豆、茄子、イカ、3者の甘みが見事に融合する。フランス料理のエスプリがある、上等なスナック。
  3. ウニのサバイヨン、アールグレイのビスク。面白い。サバイヨンによって、2種類のウニが生々しくなることなく、丸く色香を伴って甘みが引き立っている。
  4. 肝、湯あがり娘、つぶ貝のリゾット。オレンジ、オクサリス(カタバミ)。極めて質が高い500gアップの堂々たるつぶ貝と肝の旨味に、茹で具合が絶妙の、甘みが強い枝豆「湯あがり娘」の青々しい香りが抱き合う。そこに、オレンジやハーブが軽く酸味のアクセントを添える。
  5. オマール、アボカド、青リンゴ、バジル、インゲン、アメリケーヌソース。このオマールもまた質が高く、軽く仕上げながらも旨味が深いソースがさらに持ち上げる。
  6. マナガツオ、豆のつる先とロケットピーマン。2週間熟成させたマナガツオをシャンパーニュソースで。素晴らしく気品が立ち上る一皿。なんと均一な加熱だろう、フォークを入れると、カツオは生き生きと滋味を広げながらも滑らかに崩れていく。どこにも引っかかりがない、ムースである。慎重に噛みこめば、濃密な海の滋養が流れ出る。クラシックなシャンパーニュソースの柔らかくキレのある酸味が、カツオの甘みを抱き込んで優美にする。堂々たるフランス料理である。
  7. ランド産ホロホロ鳥とフォアグラ、ソース・ペリグー、赤オクラ、スベリヒユ(食べられる雑草)。マディラ酒をたっぷり使ったソース・ペリグーの深みがいい。
  8. 野菜のコンソメ焼き、とうもろこし風味。

 デセールは、赤肉メロンとメロンシャーベット、アーモンドメレンゲ。最後は、タルト、ヨーグルト、クリーム、黒イチジク。

 若いながら、クラシックなソースを大切にし、そのソースと質の高い魚介類を合わせ、独創的な料理を生み出す深谷シェフの力量は見事である。

東京都港区白金6-5-3 さくら白金102 
電話=03(6277)2199
営業時間=12時~13時(L.O.)、18時~20時(L.O.)
定休日=日曜日・月曜不定

フランス料理の新店(1)

L’Evol(レヴォル)

質の高い食材を
モダンクラシックな手法で表現

 外苑西通りから表参道に抜ける、通称「まい泉通り」に、今年三月に開店。ワインバーとウェイティングを兼ねた地下一階から階下に降りると、四十席のメインダイニングが広がる。白と深いピンク、黒で統一された店内は、ゆったりと席が配置されており、くつろいで過ごすことができる。

 シェフの高木和也さんは、渋谷「キャリエ」(昨年閉店)の評判を高めていた方で、「質の高い食材を、モダンクラシックな手法やソースで表現する」ことを目指し、腕をふるう。

 ディナーコースは、一万円(十皿)と、七千円(七皿)。ある夏の日の一万円のコースをご紹介。

 一皿目は、シェフが前の店から提供してきた「パテ・バーガー」。小さな小さなバンズでパテを挟み込んだバーガーで、練り肉ならではの香りが食欲を刺激する。

 二皿目は、雲丹をのせた「トウモロコシのムース」。トウモロコシの濃厚な甘みが舌に流れ、思わず微笑む。

 三皿目は「車エビとアスパラガスのアンサンブル」。直火で炙って冷水に取った車エビと、薄切りアスパラガスを交互に重ねた一皿で、中心がレアに保たれた車エビの繊細な甘みがいい。添えられるのは、軽く味付けした玉ねぎと茄子のラタトゥイユ。

 四皿目は、野菜の盛り合わせ「エコファームアサノと高農園の野菜~夏の香り~」。力強い野菜の下にはコンソメ、上には枝豆を泡状にしたものがのせられている。ミネラルに富む野菜と、滋味深く綺麗な味わいのコンソメとの出合いが素晴らしい。

 五皿目は「フォアグラのEvolution Ver.4」。白桃、赤桃のピュレ、パンドエピス(パン菓子)のクランブル、セルフィユ添え。低温で加熱されたフォアグラの、ねっとりと均一な艶を感じさせる食感と脂の香りに、桃たちが優美さを加える一皿。

 六皿目「イサキのパイ包み焼き、ソースショロン」。スズキを使ったボキューズのスペシャリテへのオマージュか。イサキと帆立のムースを詰めたパイである。そのパイの焼き具合がいい。焦げる寸前まで焼き込んだ香ばしさが魅力的で、一方、中のイサキは火が通り過ぎることなくしっとりと甘みを膨らませている。その加熱の見極めが、実に見事である。

 七皿目「ラ・フルール・ドゥ・ミモレット」。同店のオーナーソムリエ細野博明氏のスペシャリテである。本来はグラニテが置かれるところだが、口腔内や喉を冷やしすぎる点と、チーズは肉の脂を吸収することから考えついたという。フロマージュブランの上に、薄く削り花びら状にした、十八ヶ月熟成のミモレットをのせ、百花蜂蜜をかける。ミモレットの熟れた深い塩気とフロマージュブランの爽やかな酸味、濃厚な蜂蜜の甘みが共鳴し合う。

 八皿目の肉料理は三つの料理から選択する。その一つ「トゥーレーヌ産鳩のロースト、ソースサルミ」は見事なキュイソンで、口の中に肉汁がしたたり落ちる。そしてガラや内臓を煮詰めたソースサルミが妖艶さを演出する、堂々たるフランス料理である。

 デセールも三品から選択。「ノワゼッティーヌ、フランボワーズアイス」は、ヘーゼルナッツの香り高い焼き菓子に、ヘーゼルナッツを入れたチョコとフランボワーズソースを添える。そして、ミニャルディーズと氷温熟成珈琲で宴の幕が下りる。

 ランチコースは、四千五百円(五皿)と、七千五百円(七皿)。昼夜とも税・サ別途。
 
東京都渋谷区神宮前3-6-7 DEAR神宮前地下1階 
電話=03(6875)0357
営業時間=11時半~13時半(LO)、18時~21時半(LO) ※日曜日はランチのみ営業
定休日=月曜日

Restaurant Umi

生命の誕生の源である「海」に
感謝を込めた料理

 閑静な住宅街に、六月にオープンした一軒家レストラン。シェフは、パリの一つ星レストラン「Sola」でスーシェフとして活躍された、藤木千夏さん。

 福岡県の有明海を見て育った彼女の「海」への思い、生み出すことの「生み」、そして「Sola」へのオマージュを込めて「Umi」と店名をつけたという。

 ディナーコースは、八千五百円(七皿)と一万二千円(十一皿)。ある夏の日の一万二千円のコースは以下の通り。

 一皿目は、体を整え、喉を開き、また「食事の支度が揃っていますよ」ということを指し示す、日本古来の粥からスタートする。淡い「茶粥」は、喉を清めながら心を温め、ごぼうと白瓜、蕪のピクルスが食欲をゆっくりと開かせ、美しい滋味が宿ったコンソメ(牛、鶏、焼いた長崎のトビウオ、野菜類、しいたけ)が体を整える。

「長崎産アジのマリネと茄子のマリネ、茄子を炭化させたソース」。茄子のほのかな甘みと、品を感じさせるアジの脂の旨味を純粋に合わせて、他の要素を削った潔さがいい。雑味のない澄んだ味が味覚を開く。

「白イカのグリル、エンペラとゲソ、ズッキーニのソース、松の実などによるピストソース、シトロンキャビア」。白と緑の皿が美しい。ナッツの甘い香りとイカの甘い香りが呼応し合い、胸がときめく。

 スペイン・バスク地方の料理「ピミエント・レジェノ」(ピーマンのブランダード詰め)のアレンジ。宮崎県産の甘みの強い赤ピーマンにブランダード(鰯、タイム、じゃがいもと牛乳を合わせたもの)を詰め、パン粉とパプリカ粉をつけて焼き、赤ピーマンソースを添えた一皿。ほのぼのとした郷土料理の美味しさがあって、どこか懐かしいような気分にさせられる料理である。

 魚料理は「みやび鯛のパイ包み焼き、グレープフルーツ入りブールブランソース」。パイには、根セロリとタプナード(オリーブのペースト)、魚のムース、微量の柚子胡椒が入れられ、みやび鯛(天草のブランド鯛)の気品ある甘みを優美に持ち上げている。またブールブランの酸味の利かせ方が柔らかで、魚の旨味に対して優しい。

 肉料理は「シャラン産窒息鴨のロティ、泥つき人参とオレンジジュースと人参のピュレ、人参の花添え」。鴨のキュイソンに色気があり、見事。土の温かみを伝える人参の濃い甘みにため息が出る。

 そして「山梨県産サンタローザ(プラム)、レモンタルト、りんごのクラフティ」という、楽しい組み合わせのデセールで終了。

 ランチは土曜日のみで、六千円(七皿)のコース一種。昼夜とも税・サ別途。

東京都渋谷区恵比寿4-19-7 
電話=03(6456)4306
営業時間=12時~13時半(LO)、18時~21時(LO)※ランチは土曜日のみ
定休日=月曜日・日曜日

話題のイタリア料理店

QUINDI(クインディ)

多彩なアラカルトが揃い
様々な利用ができる楽しい店

 2018年3月に開店。以前、同じ京都の有名で働いていた料理人とサービスの仲間が、それぞれ別の店で経験を積んだあと、再び集合してこの店を作ったという。一見してイタリア料理店とは思えぬ、カフェ風の自由な雰囲気で、デートから子連れの家族まで、幅広い層の人たちで賑わう。

 また、店に入るとマーケットがあり、レストランで使う食材や調味料、ワインなどを販売しているので、食事をして気に入ったものをおみやげとして買って帰ることができる。ここで買ったワインをレストランに持ち込むことも可能。

 夜はアラカルトが豊富に揃い、京都の野菜を中心に、日本各地の食材の生産者の名前が品書きに載る。

 なかでもお勧めは、鳥取狩猟協会のドンだという次郎さんのジビエ。その一つ「次郎鹿」は、夏鹿を七十度のスープに入れて湯通しし、鹿の骨のフォンとバルサミコを合わせたソースをかけ、レーズン、松の実、焼きナスを添えた料理である。夏の鹿らしい、しなやかで柔らかい滋味があって惚れ惚れとする肉の魅力を、濃厚ながらも繊細な味わいのソースが高めている。

 そのほか「千葉竹岡の太刀魚のフリット」もいい。三日間寝かせ、米粉で揚げた太刀魚の甘みを、緑オリーブのタプナードの酸味とボッタルガ(カラスミ)の塩気が、そっと持ち上げる。

 前菜では、千葉県産のイワシを高品質の白ワインヴィネガーでマリネし、高級すもも「貴陽(きよう)」と合わせた料理がお勧め。

 プリモピアットでは、きれいで太いうま味と軽やかな甘みが生きている、茨城のトマト

「華おとめ」を使った「スパゲッティ・ポモドーロ」が素晴らしい。そのほか、高知県産の鮎と、京都産の「あさかぜ」という香り高い胡瓜を合わせ、山形産米とカルナローリ米を使ったリゾットもいい。

 メインには、「次郎鹿もも肉のグリル」や「今帰仁アグーバラ肉の煮込み」、肉汁をたっぷり含んだ「ホロホロ鳥のグリル」など、魅力的な皿が待ち構えている。

 ほかにも、「朝どれ枝豆の塩茹で」や、旬の魚介料理を盛り込んだ「舟盛り」、全国から届いた野菜の盛り合わせ、イタリア産と国内産のシャルキュトリーを盛り合わせた「イタリア半分 日本半分」など、メニューが多彩なので様々な使い方ができて、実に楽しい店である。
 
東京都渋谷区上原2-48-12 東洋代々木上原コーポ101 
電話=03(6407)0703
営業時間=[リストランテ]11時半~14時(L..O.)、18時~22時(L..O.)[マーケット]11時~23時
定休日=水曜日

Osteria dello Scudo(オステリア デッロ スクード)

伝統を深めつつ洗練させた
未来へと繋がる郷土料理

 天現寺「インカント」から独立した小池教之シェフによる新店。「インカント」ではイタリア二十州の郷土料理の抜粋を提供してきたが、この店では一州に絞った料理を三ヶ月ごとに提供していく。ワインもその地方のものが用意される。

 七~九月は、カラブリア州の料理である。長靴型をしたイタリアのつま先部分にあたる地で、古くから多くの民族の交流があり、唐辛子を使った料理が有名である。また、野菜を工夫して使った料理も多い。

 突き出し盛り合わせは、「ネオナータ(生しらす)のベルガモット風味」「ズッキーニのソテーミント風味」「ほうれん草とチコーリアのフリッタータ(オムレツ)」。

 ズッキーニを食べた瞬間に目を見開き、体中の細胞が揺れ動いた。均一に加熱されたズッキーニから優しい甘みが出て、ミントの爽やかな香りがその甘さを優しく見守っている。さらに、生しらすの料理もフリッタータも、自然でありながら、調理の精巧さがある。その哲学と技術に感服した。

 続いての前菜は「柔らかく茹でた真鯖の冷製 ガエータオリーブのインサラータ(サラダ) ボッタルガかけ」。茹でた鯖が、しっとりとねっとりと舌に絡んで甘えてくる。その食感を際立たせるようにウイキョウはシャキシャキと弾み、オレンジは溌剌とした香りを放ち、ボッタルガの塩気が鯖の甘みを持ち上げる。

 次は「ロザマリーナ風味のタコとジャガイモ、ケッパーのインサラータ チロ マリーナ仕立て」。 カラブリア州に伝わる発酵保存食のロザマリーナ(しらすの赤唐辛子漬け)でタコとジャガイモのサラダを味付けした料理で、イタリアのおかひじき、アグレッティが添えられる。ロザマリーナの練れた塩気と酸味がタコを生かす。そして生に近い食感を残したジャガイモは、なんと四時間低温で茹でたものだという。

 続いて「豚耳、豚足、カシラ、舌のゼラティーナ エルバッチァ(香草サラダ)とクッチーア(茹でた大麦)仕立て」は、豚のコラーゲンの優しい甘みに満ちている。添えたサルサヴェルデ(緑ソース)の香りが驚くほど高い。豚と大麦、ソースを一緒に食べれば、豊かな大地が目の前に広がっていく。

「アルバニア由来のパスタ シュトゥリーデリャ 仔山羊のラグー チヴィタ風」。山羊の滋味と羊チーズの香りを極太麺が受け止める。目をつぶれば山の中にいる光景が浮かぶ、素朴ながらも力強い料理である。

「燻製豚肉とリクイリツィア(甘草)のオルツォット(丸麦のリゾット)」は、豚肉の燻製香と甘草の香りが入り混じる中、素朴な麦の味が広がっていく。どこか懐かしさを感じる、温かみのある料理である。

 主菜は、「豚肉のアッロスト ンドィヤ(唐辛子を混ぜたサラミ)と赤ワインのソース」。精妙に加熱された豚肉と、辛味と酸味が食欲を刺激するソースが抱き合う。

 ドルチェも、リクイリツィアのパイや、豚血を加えたチョコレート、ひよこ豆のピュレなど、しみじみと味が染み入るカラブリアの郷土菓子が出される。

 郷土料理の再現なら、ある程度誰にでもできるだろう。だが、その哲学を理解しながら精度を上げ、あるいは、調理の工程を確認しながらさらに良き方法を探って実践するのは、容易なことではない。温度も香りも洗練させる。超えてはいけないものと超えてもいいものを判断する。先人の知恵に敬意を払いながら、その文化を踏襲していく責任と覚悟を心に据え、新たな宇宙を作る。小池シェフの勇気と度量、技術の深さが成した、どこにもない料理である。食いしん坊なら、イタリア料理好きなら、ぜひ出かけてほしい。

 コースは、五千五百円~八千円。サービスもカジュアルで心地よい。

東京都新宿区若葉1-1-19 Shuwa House 014 1階 
電話=03(6380)1922
営業時間=12時~14時(L..O.)、18時~22時(L..O.)
定休日=日曜日・月1回不定休

話題の和食店

てのしま

瀬戸内の山海の幸を盛り込んだ
新しいかたちの日本料理

「菊乃井」主人・村田吉弘氏に師事し、本店副料理長、赤坂店料理長を務めた経験を持つ林亮平氏が、青山一丁目駅より徒歩三分、青葉公園の向いのビルの二階に、今年三月二十日に開いた「てのしま」。林氏は香川県手島(てしま)の出身で、瀬戸内の山海の幸をふんだんに使った日本料理を出す。〝割烹未満、居酒屋以上〟といった雰囲気で、気軽に料理を楽しむことができる。

 一万円の一コースのみで、二十一時以降は単品のアラカルトの用意もあり、気軽に一品、一杯から立ち寄れる。

 六月のある日のコースは以下の通り。

 突き出しは「とうもろこし冷やし茶碗蒸し」。十二分にとうもろこしの甘みが引き出された冷やし茶碗蒸しの上に、よもぎの餡がかけられている。甘さと苦みのバランスのセンスが素晴らしい。

「稚鮎のコンフィ 胡瓜蓼おろし」。レモン、木の芽添え。塩焼きではなく、コンフィにすることによって、鮎の持つすべての良さが引き出されている。胡瓜の爽やかな青々しさを加えた蓼酢のピュレとの相性がよく、このあと続く料理に向き合う気持ちを高めてくれる。

 出汁の味わいが優しい「甘鯛と翡翠茄子の煮物椀」に続き、「お造り」は、金目鯛、スズキ、石鯛の盛り合わせ。いずれも香り高く、程よい脂の乗り具合と食感で、非常に質が高い。

「鱧 温南蛮」。鱧のフリットに赤玉ねぎの酢漬けを汁ごとかけ、松の実を添える。揚げた鱧の甘みに、赤玉ねぎの甘みと酸味のコクが加わり、酒を呼ぶ逸品。

「はなが牛醤油ステーキ 和ハーブバター」。愛媛県西予市宇和町で、豊かな自然のもと、地元産の飼料米を与えて育てられる「はなが牛」は、健康な証だろう、脂肪が少なく、味がしっかりとして濃い。その肉に、レモン汁とパセリを混ぜ込んだステーキ定番のメートルドテルバターならぬ、和ハーブを練り込んだバターを合わせるところが心憎い。

「てのしま寿司」。おいなりさんと鯖寿司。どちらも端正な作りで美味しい。

「いりこだしにゅうめん」。しなやかな食感と小麦の香りが良い、小豆島・船波製麺所のそうめんに、伊吹島のいりこで取っただしのつゆがホッとする優しい味わい。最後のデザートは「くずきり」が供される。

 ドリンクペアリングは六千円。日本酒は、通好みから一般的な人気のあるものまで品揃えが見事。ワインの揃えもいい。
 
東京都港区南青山1-3-21  1-55ビル2階
電話=03(6316)2150
営業時間=18時~23時(LO)
定休日=日曜日・月2回不定休 
※消費税・サービス料10%別途

久丹(くたん)

情熱とまごころのこもった
質の高い料理の数々

 元麻布「日本料理かんだ」で長年働いていた中島功太郎氏が、今年の四月七日に開いた店。白を基調としたモダンな内装に、赤の絵が華を添えている。真っ白な空間に赤を飾ることが理想だったという店主の言葉通り、清さと情熱が感じられ、場と空気が凛とする効果が得られている。

 コースは二万三千円。「かんだ」で養われた食材を吟味する眼を生かした、極めて質の高い料理が次々と出される。

 六月のある日のコースは、「メヒカリとインゲンの天ぷら」から始まった。インゲンをメヒカリで巻いて天ぷらにしたもので、メヒカリの淡い甘さが食欲を刺激する。
続いて「広島蓴菜(じゅんさい)、舞鶴のアワビ、胡瓜、合わせ酢」。蓴菜と厚く切ったアワビ、細切りの胡瓜を合わせ、上に花付きのミニ胡瓜があしらってある。アワビの厚み、胡瓜の細さにちゃんと意味があり、すべてが口中で馴染む美しさがある、涼を呼ぶ一皿。

「アオリイカの黄身和え、オランダのオシェトラキャビア」。細切りのイカを卵の黄身で和え、キャビアが載せられている。イカの甘みと黄身の甘み、キャビアの香りと塩気が、優雅に混じり合う。

 お造りの一皿目は「舞鶴産とり貝」。見事な分厚いとり貝で、噛むとじっとり甘いエキスが滲み出て喉に落ち、メロンのような甘い香りを残す。

 続いて「宇和島のオコゼ」。皮の湯引きも添えてあり、やや乳白色が差した半透明の刺身を食べると、確かな弾力があって、その中からゆるゆると甘い滋味が染み出してくる。鴨頭ねぎだけ添えた、シンプルな盛り付けもいい。

 蓋裏に松や梅の文様があしらわれた黒塗椀に入れられた煮物椀は、「アイナメ、針茗荷、ゆずの花」である。つゆを一口飲めば、「かんだ」譲りの淡く、実に素直できれいな味わいだが、飲むほどにしみじみとしたうま味が積もっていき、余韻が丸い。椀種のアイナメは見事な大きさで、優しい甘みを舌に落としながら滑らかに口中に消えていく。その滋味が溶け出して、次第に味わいが深まっていき、胸が高鳴る。そして、最後の一滴を飲み干したクライマックスに陶然となるは必至。

 次は、「島根定置網、マグロの手巻き寿司」である。赤と白と黒。まさにこの店の空間を模したものであろうか―。海苔の香りが素晴らしく、マグロの香り、酢飯の香りと共鳴し合う。

「若鮎の焼き物」。頭から齧れば、実に香ばしく、苦味、甘みが渾然と口の中で混じり合い、うねり合う。

「毛ガニ」は、ヤングコーンとつるむらさきの取り合わせで。ふっくらとした毛ガニ足のむき身は、心休まるような、ふくよかな甘みがある。そのあとは、カニみそ和えのカニの身を、少量のご飯の上に載せて供される。

 続いては「天然鰻」。鰻を一旦開いてから閉じて焼いたものである。「めそ」と呼ぶ小ぶりな鰻ゆえに、香ばしい甲殻類の殻のような香りが放たれる。

 締めは「もずくご飯」。塩をせず、蛤の出汁だけをはった小鉢に、ご飯とあられ、青森のもずくが入れられる。うま味過剰ではない、サラリとした締めのごはんもオツなものである。添えた香の物は鰹節を和えたキャベツで、これまた素朴でいい。

 最後のデザートは、「さくらんぼとゼリー、カスタードクリーム」。

 店名の「久丹」の「久」は、次世代まで残る店にしたいとの願いから「永久の〝久〟」を一字取り、 それに、食欲をそそる色・情熱の〝赤い色〟や〝まごころ〟などの意味を持つ「丹」の字を合わせたもの。正に、その想いが伝わる料理の数々である。

東京都中央区新富2-5-5 新富MSビル1階 
電話=03(5543)0335
営業時間=17時半~22時半(LO)完全予約制
定休日=日曜日・祝日 
※消費税・サービス料10%別途

大阪神戸話題の店

TAMANEGI

食材を温かく見つめた
素直でしみじみとうまい料理

「縁の下の力持ちというか、様々な料理のベースになるけど目立たない、でもないと味が成り立たない、そんな『玉ねぎ』を店名につけようと思ったんです」

 そう「TAMANEGI」の地頭方(じとほう)貴久子シェフはおっしゃった。ここは、ソムリエのご主人と二人で切り盛りされている、大阪の小さなイタリア料理店である。

 爆ぜるような身を持つ長崎産の凛々しい穴子には、優しいそら豆とビワを合わせる。

 鶏のフォンで茹でた筍、スナップエンドウ、インゲン、カリフラワーなど季節の温野菜には、「カルボナーラ仕立て」にして、卵の甘みとチーズの旨味を添える。

「ピチ、明石小ダコのピリ辛トマトソース」は、煮詰め過ぎない的確な火入れのトマトソースと、あえてタコの味をソースに溶かさず、タコとピチの食感を楽しませる。

 クニュッと弾むショートパスタのクルセートの食感の中で、足寄町「石田めん羊牧場」の羊肉のラグーは滋味を優しく滲ませていて、思わず唸る。

 そして「黒峰シャモ」の胸肉は、見事な加熱によって繊細な胸肉の持ち味が生かされていて、噛むごとに柔らかな旨味が溢れ、ため息をつかせる。

 どの料理も派手さはなく、食材を温かく見つめた素直な料理である。それでいながら、どこかで出合った料理とは違う、ささやかな個性があって、何よりしみじみとうまいのである。
 
大阪府大阪市西区新町1-20-15 
電話=06(6536)0085
営業時間=11時半~14時、18時~22時
定休日=火曜日

和洋遊膳 中村

豊富なアラカルトはどれも秀逸
近所にあれば通いたくなる店

 豊富なアラカルトを自由に頼めるという、大阪独自の板前割烹スタイルの店。ご主人の中村正明さんは「浪速割烹き川」「志摩観光ホテル」で修業された。ずらりと並ぶメニューは刺身、焼物、煮物、揚物、洋食、小菜、ご飯物と、全八十三種類に及ぶ。

 まず魚がいい。昆布で締めた「コハダ」や、脂の乗り具合が程よい「きずし」、木の芽を噛ませた「鯛」に、メロンのような香りがする「生鳥貝」、立派な青柳を使った「ヌタ」など、極めて質の高い魚が揃っている。

「野菜の盛り合わせ」を頼めば、筍山椒煮、赤コゴミ胡麻和え、ヤングコーンきんぴら、独活の酢どり、蕗梅煮、ワラビ、こんにゃく、しいたけ、焼き松の実白和えといった具合で、季節の野菜をそれぞれに別の味付けで丁寧に料理されたものが出される。

 マスカルポーネ、キンカンを射込んだ「フォアグラ最中」はサイズが程よく、「鯛白子一味焼き」は焼き具合が精妙。

「サクラマスの木の芽焼き」には優しい甘みの野菜ソースが添えられ、「ビフカツ」に添えられた、マグロだしと角煮のタレとウースターによるソースもなんともうまい。「鱧は落としで食べるより、フライにしてウースターでしょ」という、揚げられた鱧は、噛めば甘みが弾け飛ぶ。

 胡麻油をかけた「白海老とウニのユッケ」で笑わせ、互いの淡い甘みが生きた「桜海老とゆり根のかき揚げ」で再びビールを飲ませる。さらには、おじさんを陥落させる「ジャガイモミルフィーユグラタン」や、上品な味付けで芋の香りが生きた「ポテトサラダ」なんてのも控えている。

 そして締めには、デュラムセモリナ粉の素麺と鯛アラだしによる「自家製チャーシュー麺」や、志摩観光ホテル譲りの「シーフードカレー」まである。

 このシーフードカレーがいけません。海の滋養がたっぷりと含まれ、エレガントな旨味が後を引く、一流レストランでも出合えないようなカレーの味わいが割烹でいただけるなんて、食いしん坊冥利につきるじゃありませんか。

 深夜まで営業しているのも嬉しい。予算は飲んでも一人一万五千円ほど。近所にあれば間違いなく通いたくなる店である。

大阪府大阪市中央区西心斎橋2-3-22 
電話=06(6212)9217
営業時間=17時~翌1時頃
定休日=日曜日

bb9 ベベック

柔らかく逞しい薪の火を入れ
食材に隠された力を引き出す

 坂井剛シェフが薪の熾火(おきび)だけで調理するレストラン。その火の柔らかさと逞しさは様々な食材に隠された力を引き出し、心を揺り動かす。昼夜ともおまかせメニュー一万二千円~一万六千円(税サ別。季節の食材入荷状況により価格の変動あり)。

 まずはコース以外に追加リクエスト(別料金)した「焼きキャビア」。冷たい時には感じなかった、命の源となる濃密な卵の味わいが襲ってくる。温められた塩気は旨味に変化して心を揺する。次は「自家製水牛バターとパン、トリュフ」。スモーク(野味)とトリュフ(エレガント)の香りが立ち上る。野味とエレガントの交錯。

 三皿目「生牡蠣と加熱した牡蠣」。色香と純真な味わいの交錯。四皿目「小浜の鯖」。躍動と静謐(せいひつ)の交錯。澄んだ味わいがありながら、噛むと旨味が爆発する。

 五皿目「白子」。加熱されているのに、外側は柔らかく、中もとろりと柔らかい。味わいを濃密にしつつ、澄んでいる。六皿目「剣先イカと雲丹、玉ねぎ」。艶かしさと優しさの交錯。甘みがじっとりと出たイカと玉ねぎの穏やかな甘みが抱き合う。

 七皿目「アーティチョーク」。逞しさと脆弱の交錯。しなやかな甘みと猛々しさがある。八皿目「本ミル貝とプチヴェール」。清洌と豊潤の交錯。貝の清洌な滋味が滲み出て、さらに噛めば圧倒的な旨味が膨み、口を満たす。サルサヴェルデの酸味が絶妙。

 九皿目「ノドグロとその出汁のリゾット」。豊満の中の凛々しさ。脂が乗っているが、深海魚特有の脂のだらしなさがなく、綺麗で凛々しい。十皿目「天城軍鶏、ゆり根、ほうれん草」。繊細と大胆の交錯。胸肉の繊細さ、モモ肉の豪胆さがあり、ゆり根はこの上なく甘い。デザートは「薪焼きいちご」。野生と可憐の交錯。最後は「燻製アイスクリームに危険なものをかけて」。

 ソムリエの西川正一さんがセレクトする、各種ワインのペアリングも素晴らしい。

兵庫県神戸市中央区元町通3-14-5 
電話=050(3186)4889
営業時間=[ランチ]12時[ディナー]18時・19時・20時
定休日=不定休 
※予約は2~6名まで。6名以上は要相談。

とんかつ

とんかつ 一頭揚げ 亀かわ 巣鴨本店

肉を食べた満足感を
十二分に味わえるとんかつ

 2017年末、巣鴨のとげぬき地蔵通りに開店。鹿児島でパイン粕を入れたオリジナル飼料を与え、飼育期間を通常より二ヶ月伸ばして旨味を熟成させる「南国スイート」という豚を使用する。店名は、養豚家である亀川孝志さんの名前から付けられている。

 料理長は、赤坂で人気だった「フリッツ」の出身。とんかつ好きで、全国のとんかつ屋を食べ歩いているという。

「ロース定食」(百二十グラム千五百五十円~)は、一枚だけ断面を上にして盛られており、そのうっすらと桃色が刺した肉色に色気がある。

 自慢の豚肉は、何より脂がいい。噛めば、緩みなくしっかりとした歯ごたえながらするりと溶けていく。甘い香りとともに深いコクがある。

 一方、肉は、噛みしめる喜びを与えるきめの細やかさで、歯が肉に抱きつかれるように入っていき、肉汁が滲み出る。この食感のせいか、豚本来の優しさはあるものの凛々しさを感じる肉で、その特性を生かすよう精妙な加熱で揚げられている。

 衣は中粗で、サクサクと香ばしい。使う揚げ油は米油で、あっさりとした仕上がりだが、「肉を存分に食べた!」という満足感を十二分に味わえるとんかつである。

 ソースは甘め。キャベツはみずみずしく、お代わり自由。ご飯はもちもちして香りも高く、とても美味しい。

「一頭揚げ 亀かわ定食」二千二百円は、特撰リブロース・ロース・本日の厳選部位二種(この日はヒレとトントロ)・亀かわメンチの五種類の盛り合わせで、全体で約百八十グラムになっている。

なかでも、肉と脂の魅力を同時に堪能できる、特撰リブロースがいい。この豚肉の醍醐味が味わえる部位だろう。また、深めに揚げてコリッとした脂や肉の食感を生かしたトントロも素晴らしい。

もう少し軽めがいい場合は「三種盛 亀かわ定食」(特撰リブロース・ロース・亀かわメンチ)千六百円がおすすめ。
 
東京都豊島区巣鴨4-19-8
電話=03(6903)7029
営業時間=[平日]11時~14時半(LO)、17時~20時半(LO)[土日祝]11時~20時半(LO)
年中無休(年末年始休みあり) 
※表記価格は税込

かつ好 日本橋人形町

恵比寿で人気を呼んだ「かつ好」
日本橋人形町に復活

 一九九四年に恵比寿ガーデンプレイス開業とともに静岡から進出した「かつ好」。モダンな店内、若く元気のいい店員、とんかつの下に敷かれた網など、従来のとんかつ屋とは違う点が多く、女性客にも人気で、エポックメイキングな店だった。

 やがて名前を変えて別の店となったが、一昨年に日本橋人形町に復活。裏路地に、看板もなく古民家を改装した隠れ家のような店を構えている。

「ロースかつ」(百十グラム千四百五十円~)を注文。見ていると、実に丁寧な仕事ぶりである。

 外に出ているのは小麦粉を入れたバットだけで、注文が入ると、冷蔵庫から卵液とパン粉を出す。そして肉の塊を取り出し、切って重量を量り、叩き、筋切りをし、周囲を切り落として成形し、衣をつける。

 それを中温で揚げ、丹念に油切りをし、休ませる。しかる後、鉈のようなカツ切り包丁で切り、皿に盛られて登場する。

 肉は、噛んだ瞬間に香る甘い香りが、良質の豚肉であることを語っている。脂の溶け具合も素晴らしく、衣は粗目で、サクサクとした軽快な食感。とんかつという料理の魅力に満ちている。

 何もつけずとも十二分にうまいが、この店ならではの調味料も試したい。溶き芥子は、粉芥子を溶いたものではなく、本物の地芥子を練り上げており、爽やかな刺激がとんかつを盛り上げる。わさび醤油は、質の高い本わさびならではの香りと刺激が、豚肉の甘みを引き立てる。梅の香りが漂う梅塩も面白い。

 付け合わせのキャベツは極細に切って紫蘇を混ぜてあり、みずみずしい。

 そのほか、独特の「ヒレかつ」(百十グラム千七百円~)も香りがあって上等。また、薄く叩いた肉を二枚揚げた「かろみかつ」二千二百円も、肉は薄いながらも十二分に香りと味が伝わって、素晴らしい。

「ご飯・おつけもの」は二百五十円。ご飯は粒が立って輝いている。おつけものは胡瓜、大根、人参の浅漬け。アサリの味噌汁「汁わん」二百五十円も香り高い。

東京都中央区日本橋人形町3-4-11 
電話=03(6231)0641
営業時間=11時半~14時(LO)、17時半~20時半(LO)
定休日=日曜日 
※表記価格は税抜

とん八亭

お昼時のお値打ちな定食
常連になりたい魅力溢れる店

 創業は一九四七年と古く、今は三代目が店を守る。昼時に美味しいとんかつ定食をお値打ちな価格で提供し続け、長らく人々に愛されてきた、とんかつ発祥の地・上野らしいとんかつ屋である。誠実なご夫婦二人で営まれる清潔な店内は、常連で賑わい、客の愛着がしみた、新しい店には醸し出せない空気が漂っている。

 堂々たる厚さで肉の旨味を誇る「ロースかつ定食」千八百円も素晴らしいが、「かつライス」九百円がいい。この庶民的な値段の中には、安くとも美味しいものを食べてもらおうという心意気が詰まっている。

「ロースかつ定食」の重さを変えただけだという「かつライス」の肉は、十分に肉汁を含んでしっとりとし、脂の溶け具合の軽さもいい。低温でじっくりと揚げるかつの衣は色が薄く、油切れがいい。肉と衣の一体感があって「とんかつを食べているぞ!」という熱気を高めてくれる。

 ソースは甘めである。キャベツは極細切りで上等。ご飯も甘くて炊き具合よく、大根、白菜、人参、胡瓜による新香も質が高い。鰹節と豚肉で出汁を取り、豆腐と三つ葉が入れられた味噌汁も美味しい。

 肉に香りがあって魅了する「ヒレかつ定食」二千百円もおすすめ。

「常連になりたい」と思わせる、魅力溢れる店である。

東京都台東区上野4-3-4 
電話=03(3831)4209
営業時間=11時半~14時半(売り切れ次第終了)
定休日=月曜日(祝日の場合は翌日・臨時休業あり)
※表記価格は税込

汁なし担々麺

Wakiya一笑美茶樓  Turandot臥龍居

中細縮れ麺に絡む肉味噌の旨味
端正な姿の品のある担々麺

 日本の四季の厳選素材をふんだんに使い、体に優しい中国料理を生み出す、脇屋友詞シェフの旗艦店である「Wakiya一笑美茶樓」。

 今年四月から「ピリッと辛い汁なし担々麺」千五百円が、メニューに加わった。

 たっぷりと麺に散らされた、漢源花椒(花椒の中でも最高級品とされる四川省漢源産の花椒)のほのかに甘い香りが立ち上る担々麺は、肉味噌と半熟煮卵、ホウレン草のおひたしが載せられた端正な姿である。辣油の赤は見えていないが、混ぜ始めると顔を出し、麺は赤茶に染まっていく。肉味噌の味わいが複雑に混じり合っているので、一口目は甘く感じられるが、次第に辛味や痺れがやってくる。

 中細縮れ麺もよく、自家製辣油と香油の香りや、肉味噌の旨味、胡麻ペーストのコクがよく絡まり、口元に上って笑顔を呼ぶ。品を感じさせる担々麺である。

 一方、朝のお粥から、熱々のヌードル、季節のコース料理まで、カジュアルにもフォーマルにも利用できる「Turandot臥龍居」。こちらでも、一階のテイクアウトコーナーにて「担々まぜそば」七百五十円がいただける。チャーシュー、ナルト、シナチクと日式風な具を配したもので、辣油の香りの高さが生きている。

 テラス席で汗をかきかき食べれば、クーラーの効いた部屋で食べるそれとは異なる魅力があって、まさしく生まれ故郷・成都元来のスタイルを彷彿とさせる。

Wakiya一笑美茶樓 
東京都港区赤坂6-11-10 
電話=03(5574)8861
営業時間=11時半~14時半(LO)、17時半~22時(LO)(土日祝の夜は21時LO)
年中無休

Turandot臥龍居 
東京都港区赤坂6-16-10 Y’s CROSS ROAD1・2階 
電話=03(3568)7190
テイクアウトコーナー=【平日】11時~16時、19時~24時【土日祝】11時~16時、17時~23時
年中無休

中國菜 老四川 飄香

まろやかかつ複雑に魅了する
優しく丸い味わい

 テレビでも活躍されている井桁良樹シェフの四川料理店。毎年四川に出向かれて、食材調達と共に精進されており、古典的料理から現代風中国料理まで幅広い皿を楽しむことができる。

 麻布十番本店、銀座三越店の両店で提供している、本場四川の汁なしタンタン麺「正宗担々麺」は、昼夜ともに千五百十二円。

 オレンジがかった赤い油が下に敷かれ、細麺が端正に折り畳まれて置かれている。その上に、松の実と砕いたピーナッツ、青野菜、肉味噌が載せられた担々麺から、ほのかに甘い香りが立ち上って顔を包む。混ぜていくと山椒の香りが鼻腔を刺し、やがて複雑な香りとなっていく。

 辛味も痺れもありながら、実に味わいが丸い。バランスよく、肉味噌以外は旨味に頼っていないのに、優しい旨味が湧き出てくる。その上、麺がなんとも旨い。

 タレには、鶏スープ、自家製辣油、醤油、砂糖、塩、酒、芝麻醤、黒酢、芽菜(ヤーツァイ)(青菜の芽を塩漬けした四川の漬物)、ニンニク、唐辛子、山椒、山奈(生姜科の多年草)、砂仁(ハナミョウガなどの種子塊)カルダモン、八角、桂皮が入れられているという。そのどれが突出するでもなく、まろやかかつ複雑に魅了する。

中國菜 老四川 飄香 麻布十番本店 
東京都港区麻布十番1-3-8 Fプラザ地下1階 
電話=03(6426)5664
営業時間=11時半~14時(LO)、18時~21時半(LO)
定休日=月曜日、第1・第3火曜日

中國菜 老四川 飄香 銀座三越店 
東京都中央区銀座四の6-16 銀座三越12階 
電話=03(3561)7024
営業時間=11時~15時半(LO)、17時~21時半(LO)
定休日=銀座三越の休館日

中国四川料理 梅香

毎日でも食べたくなる
心和らぐ旨味と深い香り

 四川料理の名店、新橋「趙楊」のオーナーシェフ趙楊さんの直系弟子で、その味を引き継ぐ伊藤光恵さんが作る「汁なし担々麺」千五百十円。赤茶色のタレに極細麺が綺麗に折り畳んで置かれ、天に肉味噌、周囲に細葱の小口切りを散らしてある。その姿は美しく、箸を入れて混ぜるのをためらうほどである。

 最初は花椒の華やかな香りがして、混ぜていくと、酢をはじめ様々な香辛料が入り混じった複雑な香りが漂ってくる。なにより、単に辛味に頼っていない点がいい。バランスよく、辛味も痺れもしっかりと感じるが、旨味もあって、食べ進むごとに心が和らぐような感覚がある。自家製辣油や山椒油、葱や芽菜、腐乳、ニンニク、黒酢などを使っているというタレは、担々麺で最も重要なポイントである〝香り〟の表現が、実に優しく深い。

東京都新宿区横寺町37-39 中島第一ビル1階 
電話=03(3260)2658
営業時間=12時~13時半(LO)、17時半~21時(LO)(土祝の夜は20時半LO)
定休日=月曜日、火曜日昼、日曜日夜

四川担担麺 阿吽 湯島店

香り豊かな自家製辣油と花椒
ジャズをBGMに食べる担担麺

 平日休日問わず行列ができる担担麺専門の人気店。湯島店、浅草店の二店舗を展開。

「白胡麻つゆ無し」は八百三十円(「黒胡麻つゆ無し」九百円)。楕円の皿に、オレンジ色がかった赤いタレが輝き、平打ち中細麺の上には、水菜と干しエビ、粗挽き肉を使った噛み応えのある肉味噌が載せられる。まず花椒の香りが鼻をくすぐり、混ぜていくと、渾然一体化した香りが漂いだす。

 麺は、タレや肉味噌をよく絡めながら口元に上ってモチモチと心地よく、瞬く間に食べ終えてしまう。水菜のシャキシャキした食感、干しエビの香りと深い味わいが、見事なアクセントとなっている。

 辛さの辣油と、痺れの花椒は、〇~六まで自由に組み合わせできるのがいい。

 このほか、「担担麺」「黒胡麻担担麺」「味噌担担麺(限定)」もある。

東京都文京区湯島3-25-11 
電話=03(3834)6350
営業時間=【平日】11時~14時半、17時半~21時45分【土】11時~15時、17時半~21時45分【日祝】11時~15時、17時半~21時(材料なくなり次第閉店)
定休日=火曜日(祝日の場合は翌日休業)