せがわきり

児童文学作家・『池尻餃子.』店主

山田屋

基本を極めた町中華

 私は、新宿十二社というところで生まれ、都庁が完成するのを見ながら育った。十二社はその昔は花柳界もあった特殊な場所であり、ドラマや映画の撮影に出くわすことも日常茶飯事で、著名人が足繁く通う店が沢山あった。

 その後、バブルが起こり、地上げ、立ち退きで多くの名店が消えていった。今は数軒残っているだけだ。

 その中でも、子どもの頃から今でも一番通い続けている行きつけの店がある。『山田屋』という町中華だ。大人になって知って驚いたのが、山田屋さんなのに、ご主人は青木さんという(笑)。

 ここの凄いところは、全てがシンプルで超基本なのにめちゃくちゃ旨い。基本を極めているのである。きっと青木さんが塩むすびを握ったら物凄く美味しいだろう。 

 私のおすすめメニューは半ラーメン、半チャーハン、半餃子、これを三位一体で食べること。

 ラーメンはナルト、焼豚、メンマ、白ネギの載った醤油味で、私が思う理想の東京ラーメン。出汁は鶏と豚骨と鰹の基本形で、丁寧に取っているからか透明感がある。麺は微妙に縮れているように見えるが縮れ麺ではないそうだ。しかし、スープによく馴染む。

 チャーハンもシンプルなパラパラ系。コロコロ焼豚に卵、白ネギ、以上! 至って基本形の普遍的な味に、40年以上も鍋を振ってきた歴史を感じる。

 そして、何と言っても餃子の旨さはピカイチ!私、餃子屋の女将ですが、うちの餃子を除いてどこの餃子が美味しいですか? と聞かれたら、即答で、ここです! ジャンボ餃子の類に入る大きさで、皮も手作り。昔「全部手作りで大変ですね」と言ったら、「作ったほうが安いもん」と明るくさらっとおっしゃって痺れた! かっこいい、青木さん。

 ぎっしりと詰まった豚肉に、シャキッとたまに奥歯で感じるキャベツが、飽きずにいくらでも食べられる。さらに、噛んだ瞬間から溢れる肉汁は、小皿にまでずっと流れ続ける。中身は普通だけど、普通を極めるとこんなに美味しくなるのだ。

 どのメニューも基本形だが、長い歳月をかけて色々なものがそぎ落とされ、今の究極の基本スタイルが出来上がった、というのが私が子どもの頃から食べ続けてきた感想である。きっと青木さんご夫妻の人生そのものなのではないだろうか。

 数少なくなってきた、究極の基本の味が食べられる十二社の名店が1日でも長く続くよう、心から願ってやまない。

東京都新宿区西新宿4-11-18
TEL 03(3375)1906

佐藤 崇史

株式会社資さん『資さんうどん』

赤坂こみかん

元気をもらえる福岡の名酒場

 福岡には、元気な勢いのある店が多い。客をもてなすことを心底楽しむ料理人たちが腕を振るう。最近はそんな店が増えてきた。大名にある『赤坂こみかん』も、福岡でひときわ輝きを放つ店である。

 京都の料亭で修業した大将による、地元福岡の食材を使った料理をあてに、厳選した季節の日本酒やワインを嗜む。酒好きには堪らない店だ。

 暖簾をくぐると威勢のいい掛け声。活気溢れる空間だ。厨房を囲むカウンターに、お竈(くど)さんと大きな天ぷら鍋が存在感を示す。席には手書きの名札が。一寸した気配りが嬉しいではないか。

 まずは、キンキンに冷えたビールから。お通しは、その場で山わさびを削り落とす、温かい出汁漬けのお稲荷さん。清々しくも優しい味がビールの喉ごしを引き立て、寛ぎのひと時の始まりを告げる。

 最初に頼むのは、名物にしたいコールスロー。自家製マスタードが掛かるキャベツのタワーをゆっくり崩すと、中からゆで卵が。遊び心も楽しい。

 庶民的な天ぷら店が多く、天ぷら好きの多い福岡だが、この店の料理の主役も天ぷらだ。揚げたての天ぷらを一品ずつ注文。まずは、福岡定番のごぼう天。新ごぼうのさくさくの歯ごたえが嬉しい。ぷりぷりに揚がる子持ち昆布も最高の酒の肴になる。変わり種は、大ぶりの牡蠣をピーマンに詰めたカキピー。齧ると熱々の牡蠣汁が溢れ、ピーマンの青みと相まって食欲を掻き立てる。

 ここで突然、「こんな感じで炊けてます」と、大将自ら土鍋を手に炊きたての白ごはんが客席にお披露目された。「欲しい人は手を挙げて」という声に思わず全員が挙手。この店のいつもの風景だ。

 大将の久留米の実家で収穫した米のみを炊いたこだわりの白ごはん。そのお供に最高なのが名物の、鴨と糸島クレソンのくわ焼きだ。軽く焼いた鴨とクレソンにすき焼き風の割り下をつけて七輪で焼く。香ばしい味が口いっぱいに広がり、白ごはんと抜群の相性を発揮する。思わずごはんをおかわり。たっぷりのいくらをぶっかけて、いくら丼にして2度満足。

 大将の末安拓郎さんは、気配りの人。常に笑顔を絶やさない。人柄は店全体に伝わり、実に居心地がいい。気付くと皆に笑顔が溢れる。最後は大将自ら外まで見送り、お土産にみかん飴を手渡す。

 店は人である。同業者としてつくづくそう思う。連日にぎわう店からは学ぶことが多い。料理と酒と人が紡いだ笑顔に元気をもらえる店である。

福岡県福岡市中央区大名1-7-101 ワコウハイツ1階
TEL 092(734)3090