手塚 雅彦

放送作家

ナノハナ麻布十番
洗練と日常が共存する
麻布十番のオアシス

 麻布十番の商店街から、一本裏手。和食の名店も店を構えるこの通りに、目的の店がある。

 夜8時、日中は和菓子屋として賑わう店が、 バーへと姿を変える時間。窓から通りへと溢れる明かりが、通行人の足元を照らす。店の前には、主張しない手書きの看板が一枚。その奥ゆかしさに誘われて、ついついガラス戸を開けてしまう。

 古民家がリノベーションされた店内は、コンクリート打ちっ放しの一枚カウンターと小さなテーブル席が2つ。狭すぎず、広すぎず、自分の隠れ家とするにはうってつけの空間だ。

 店を切り盛りするのは、九州男児のオーナーと小気味良い女性スタッフたち。客に合わせ緩急をつけながら会話のテンポを作る様が、店の選手層の厚さを伺わせる。一方で、手元は常にテキパキと。客の知らぬ間に、色々なものが整えられていく。その居心地のよさに、ついつい甘えてしまう。

 カウンターに座ると、おしぼりと共に出されるチャームにまず驚くことだろう。素焼きのミックスナッツにまぶされた、鼻腔を刺激する香り高いトリュフ塩。このチャームの香りが、この店の始まりのチャイムを鳴らすのだ。

 泡が昇るシャンパンから始めるのも良し、日本酒でも、ワインでも焼酎でも、その日の気分に合わせて好きな一杯から味わうと良い。どれもが明瞭会計、安心していっぱい楽しめる。

 おすすめを挙げるとするならば、ハイボール。スコッチウイスキーの名門「バランタイン」を使い、強め炭酸で作り上げられた一杯。ウイスキーの香りの濃さが絶妙なバランスを見せ、薄はりグラスの口当たりの良さも相まって、何杯飲んでも爽やかさを感じさせてくれる。そして最近注目なのが、塩レモン。ジンもしくはウォッカに炭酸、そして塩とレモンというシンプルなレシピ。しかし侮ることなかれ。門外不出のオーナーの塩加減で、リピーターが続出する一品となっている。

 ちょっと自分にご褒美をあげたい日には、店特製のキャビ玉を。白く艶やかなゆで卵が2つにカットされると、垂れるか否かの瀬戸際を見せる絶妙に火入れされた黄身が現れる。そこにオーナー厳選のキャビアをたっぷりと。ケチなことは言わない、九州男児は行動で見せるのだ。一口頬張れば、口の中でキャビアの塩味と黄身のコクが一体化し、至福な味へと変化していく。

 ここは、一見だろうとなかろうと、たどり着く者たちを無条件で「お帰り」と迎えてくれる場所。まさに都会に現れる、オアシス。

東京都港区麻布十番2-8-1 1階・2階
TEL 03(3454)7225