小倉 秀一

株式会社いまでや

の弥七
中華の枠を超えた、和との調和

 業務用酒類販売が生業である私は、毎夜のように取引飲食店や注目されている繁盛店を回る。職業柄、料理だけではなく、取り扱う酒とのペアリングを模索することも常で、それは食を楽しむために欠かせない要素であると思っている。

 そんな毎日の中で出合った中華料理店『の弥七』。中華の名店・三田『御田町 桃の木』や上海での修業を重ね、研鑽を積んできた山本眞也シェフが、2014年に荒木町にオープンし、すぐに人気店に。2017年6月、同じ荒木町エリアに移転したこの店は、一見和食店を思わせる清閑な店構え。器も和食器を使用し、まるで「中華懐石」「中華割烹」とも思える和と中華を見事なまでに融合させた、唯一無二の料理の数々だ。

「ジャガイモと清湯のすり流し」。口当たりはとてもスムーズできめ細かい。中の鰻はふんわりと柔らかく、花穂紫蘇の香りと黒胡椒のアクセントが心地よい。「海老の紹興酒漬け」は、粘性のある食感と噛みしめるたびに広がる海老の甘み。「スナップエンドウとアスパラのお浸し」を味わっていると、日本酒が飲みたくなってしまう。中華料理のはずなのに日本酒を欲するのは、素材を活かす調味料や出汁を感じるからこそ。

「よだれ鶏」は、山椒やラー油、そしてたっぷりのパクチーがのっている。それでもスパイシーさや香辛料を奥ゆかしく感じられるのは、山本シェフの技術の高さからだろう。そこに、愛知県の銘酒「醸し人九平次」を合わせてみる。このお酒は、何層にも感じられる味の緻密さ、果実を思わせる艶っぽい香り、そして食材の風合いを包み込みつつ、綺麗に引き締める酸がある。素材が活きた「の弥七」の味わいにしっかりと寄り添ってくれた。

 コースの〆は「麻婆豆腐」。豆腐と同じくらい柔らかく煮込んだ牛すじがガッツリと入っている。刺激的な辛さや尖った塩味は一切ない。ほんのりと山椒の風味が漂ってくる。炊き立ての釜炊きご飯が絶妙なタイミングで提供され、ニンニクや唐辛子の香味のおかげでご飯が止まらず、あっという間に完食してしまったのである。

 全ての料理に言えることは、一皿一皿妥協なく確かな「仕事」を実感し、そしてしみじみ旨い。山本シェフが創り出す繊細で優しい中華出汁がきいた味は、すぐにでもまた食べたくなってしまう。こうして書いている今も、頭の中は「の弥七」の料理を夢想して今度はどんなお酒と合わせようか、悩んで楽しくなってしまうのである。

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