フランス料理の新店(2)

サンプリシテ

堂々たるフランス料理の風格
日本の魚が中心のコース

 フランスやスイスの数々の星付き店にて研鑽を重ねて帰国し、『銀座レカン』スーシェフ、広尾『レヴェランス』、荻窪『ヴァリノール』料理長を歴任後、昨年12月に独立開業した、相原薫シェフの店である。

 日本の魚はキレイで、水のような澄んだ味わいがある。しかし熟成させると、たちまち内に眠っていた凛々しさが顔を出す。濃密に味が膨らんだ魚は油脂ともなじみ、さらりと軽い野菜のソースをかけても色気がにじみ出る。「1か月も熟成できる魚は世界中を探しても日本にしかない」という相原シェフは、極めて質の高い魚を仕入れ、それらを熟成させて、力強い野菜と合わせる。魚と野菜のたくましいミネラルが結合して、色気を醸し出す。 
 1コースのみで、昼は5000円(7~8皿)、夜は1万3000円(11~13皿)、税・サ別。完全予約制。

 ある夏の夜のコースは以下の通り。

  1. 2週間寝かせたサワラと焼き茄子ピュレにトマト。サワラの熟れた色気と、焼き茄子の香りが素晴らしく合う。
  2. サブレ・ブルトンヌに、ボルディエの海塩バター、68℃で火入れをしたシラスと卵黄、黒オリーブのマドレーヌ。マドレーヌの食感と香ばしさが食欲をくすぐる。
  3. パン・ド・カンパーニュ、ボルディエの海藻バター、釧路町昆布森の毛ガニ、ラトビアのキャビア「オシェトラ」。毛ガニの味の濃さが全てをまとめ上げている。
  4. 6日間寝かせたイワシとネギ、生姜。イワシの温度帯が素晴らしい。それが色気を醸して、ワインが飲みたくなる。
  5. ボタンエビ、ボタンエビ頭のコンソメ、ダークチェリー、バラの花。真空氷温漬けにしたボタンエビの濃縮した甘みが、ダークチェリーの甘酸味や華やかなバラの芳香と合わさり、ときめく瞬間がある。
  6. アワビ、アワビのフォンとクリームとバターのソース。トリュフ。ジャガイモのリゾット。
  7. 胡麻鯖、トマト水とグリーンオリーブのスープ。フィンガーライム、ルッコラ、カラマンシービネガー。生き生きとした胡麻鯖の肉が生み出す豊潤な滋味と爽やかな香り、トマト水やグリーンオリーブの旨味が醸し出す美しさに、うっとりとなる。
  8. スジアラ、小松菜のソース。5日間寝かせたスジアラの雄大な滋味と、小松菜の青々しい香りとの出合いにより、味に底知れぬ深みを生み出している。
  9. 京都七谷(ななたに)鴨とインゲン。赤ワインとマグロ節、イリコと椎茸、マッシュルームと白菜、昆布のソース。軽やかさと濃密さを両立させた味のソースが、精妙に火入れされた鴨肉の滋味を持ち上げて素晴らしい。
  10. ビーツと抹茶パウダー。ビーツの真髄だけを煮詰めたような濃縮感がいい。

 デセールは、ほうじ茶のフォンダンとソルベ。これまた香り高く、心を安らげる。最後は、小さなシュークリームと台湾茶。

 相原シェフの料理は、どの皿も堂々たるフランス料理の風格がある。精神を溶かし、肉体を弛緩させる。それはおそらく、フランスで長く修業して学んだ、彼の根っこにある、料理人としてのある種のしたたかさではないだろうか。そこに潜むフランス料理の哲学が、我々を魅了するのである。

東京都渋谷区猿楽町3-9 アヴェニューサイド代官山12階 
電話=03(6759)1096
営業時間=12時~13時半(L.O.)、18時~20時半(L.O.)
定休日=月曜日・第1火曜日(祝日の場合は翌日)

アルゴリズム

独創性を生み出す
良質の魚とクラシックなソース

『銀座レカン』『カンテサンス』で経験を積まれた、深谷博輝シェフが昨年秋に開いた店。モダンな内装、カウンターだけの店を、シェフとサービスの二人で切り盛りされている。1コースのみで、昼は8000円(7~8皿)、夜は1万4500円(10~11皿)。料理に合わせたペアリングのみの用意で、ワインペアリング4500円~1万500円(3~7杯)、ノンアルコールペアリング5500円(5杯)、税・サ・水込。完全予約制。

 ある夏の夜のコースは以下の通り。

  1. スイカのモヒート。半割りにした小さなスイカの中にモヒートが入れられ、涼が口の中を吹き抜ける。
  2. ピサラディエール。南仏郷土料理をアルゴリズム流で。温めた石の上にパンスフレ、玉ねぎのコンフィ、オリーブ。
    ?煮たレンズ豆と焼き茄子のフリット、白イカのソテー。レンズ豆、茄子、イカ、3者の甘みが見事に融合する。フランス料理のエスプリがある、上等なスナック。
  3. ウニのサバイヨン、アールグレイのビスク。面白い。サバイヨンによって、2種類のウニが生々しくなることなく、丸く色香を伴って甘みが引き立っている。
  4. 肝、湯あがり娘、つぶ貝のリゾット。オレンジ、オクサリス(カタバミ)。極めて質が高い500gアップの堂々たるつぶ貝と肝の旨味に、茹で具合が絶妙の、甘みが強い枝豆「湯あがり娘」の青々しい香りが抱き合う。そこに、オレンジやハーブが軽く酸味のアクセントを添える。
  5. オマール、アボカド、青リンゴ、バジル、インゲン、アメリケーヌソース。このオマールもまた質が高く、軽く仕上げながらも旨味が深いソースがさらに持ち上げる。
  6. マナガツオ、豆のつる先とロケットピーマン。2週間熟成させたマナガツオをシャンパーニュソースで。素晴らしく気品が立ち上る一皿。なんと均一な加熱だろう、フォークを入れると、カツオは生き生きと滋味を広げながらも滑らかに崩れていく。どこにも引っかかりがない、ムースである。慎重に噛みこめば、濃密な海の滋養が流れ出る。クラシックなシャンパーニュソースの柔らかくキレのある酸味が、カツオの甘みを抱き込んで優美にする。堂々たるフランス料理である。
  7. ランド産ホロホロ鳥とフォアグラ、ソース・ペリグー、赤オクラ、スベリヒユ(食べられる雑草)。マディラ酒をたっぷり使ったソース・ペリグーの深みがいい。
  8. 野菜のコンソメ焼き、とうもろこし風味。

 デセールは、赤肉メロンとメロンシャーベット、アーモンドメレンゲ。最後は、タルト、ヨーグルト、クリーム、黒イチジク。

 若いながら、クラシックなソースを大切にし、そのソースと質の高い魚介類を合わせ、独創的な料理を生み出す深谷シェフの力量は見事である。

東京都港区白金6-5-3 さくら白金102 
電話=03(6277)2199
営業時間=12時~13時(L.O.)、18時~20時(L.O.)
定休日=日曜日・月曜不定