関野 了

南青山「ゼファー」オーナー

海味
作り手の生き方が投影された人々を虜にする寿司

 いつの間にか世界的な料理となった寿司。私が長年商いを営む南青山にも、少なからず名店があり、その技を日々競い合っています。

 その中のひとつが、多くの食通の支持のもと、界隈ですっかり名物となった、お客様を送迎する声が響き渡る「海味」。その店の名を上げ、通人の舌を唸らせているのが、まだ三十代ながら親方として店に立つ中村龍次郎君です。

 彼の師匠であり、先代親方としてその評判を不動のものとしたのが、故・長野充靖君、通称「みっちゃん」であったことは、読者の皆様であれば十分ご理解のことと思います。

 長野君があまりにも早すぎる別れをしてから、三年の月日が流れました。ある意味、破天荒で革命児的な生き方を、握る寿司の中に色濃く投影されていた彼のスタイルには、もう再び出合うことはできないものと、多くの彼の信奉者は半ば諦めていたことと思います。

 多くの料理はその味を、作り手の技量だけにとどまらず、生き方をも反映したものとして、私たちの前に提供されています。

 長野君が築き上げた寿司の世界は、彼を師と仰ぎ、徹底的に鍛え上げられた弟子たちに確実に伝承され、さらに洗練されて見事に蘇りました。

 先程、ご紹介させていただいた中村君は、忠実な弟子として「海味」の流れを守りながら、徐々にその姿を彼の感性のもとに変貌させつつ、古くからの「海味」ファンを満足させております。

 そして、僅か二年で人気店となり、今や予約困難な「天本」。その大将・天本正通君は、十数年来、右腕として親方の長野君を支え、技の全てを叩き込まれた、正に直弟子であります。彼もまた、その技をもとに、千変万化する求道者として、東麻布の一角で世のグルメたちを虜にさせております。

 また、東京を離れた地でも、「海味」の味は多くの弟子たちに依って引き継がれ、福岡の博多では「鮨さかい」の大将・堺大悟君が、長野県諏訪では「中野屋」を営む中山洋介君が名声を得ています。

 寿司を喰らう姿を満足気に見つめ、してやったりの笑顔を浮かべていた故人の技は、弟子たちに依って今日も私たちを幸せにしてくれているのです。

東京都港区南青山3-2-8 三南ビル1階
TEL 03(3401)3368